ファーストソング

そんなことを思い出しながら俺は病室で大きなため息をついた。

「はぁ~あ」
「どうしたの?そんな大きな溜め息ついて幸せ逃げちゃうよ?」
「もう逃げてるようなもんだよ」
「え、何。 本当に元気ないじゃん。 何かあったの?」
「なんでもない。 つか、千冬ちゃんさ小さい頃の将来の夢とかって作文書いた?」
「書いたよ。 でも発表はしてないかも」
「え? もしかして運がいい系?」
「運がいいって…。 ふふ。 違うよ」
「じゃあ何で?」
「私小さい頃から身体弱かったからさ。 あんまり学校行けてなかったから」
「…ごめん」


馬鹿! なんつーこと聞いてんだ俺!
この間反省したばっかじゃん!
ちょっと考えれば分かるだろって!!


「いいって。 もう気にしてないし。 だから発表はしてないよ」
「こんなこと言っちゃいけないってわかってるけど、すっげぇ羨ましい」
「どうして?」
「だって公開処刑だよ? 俺なんか将来の夢で散々親に笑われてさ」
「え? 夏輝のお母さんたちは応援してないの?」
「応援するわけないない! 俺んち大家族だし、しがない定食屋経営してて子どもの養育費だけでカツカツ!」
「ふ~ん」
「千冬ちゃんのとこは?」
「応援してくれたよ」
「めっちゃ羨ましい! ちなみにどんな夢だったの?」
「ありきたりだよ。 ケーキ屋さんだったかな? お姉ちゃんが律儀にも調べてきてくれて速攻諦めたけどね」
「え! なんで?」


あのお姉さんそんなことまでしてるんだ。

本当に千冬ちゃんのことが大事なんだな


「だってケーキ屋さんって意外と重労働なんだもん」


彼女が不貞腐れたように頬を膨らませながらそう呟いた。
俺はその彼女の子どもっぽい仕草に声をあげて笑った。
< 66 / 75 >

この作品をシェア

pagetop