母が恋に落ちたとき……
「どうぞ」

私は、入れ立ての緑茶を茶托に乗せ、社長の机の上にそっと置く。

「ありがとう、平野さん」

優しい笑みを浮かべて顔を上げた社長は、お礼を言って私を見つめる。

なんでもないただのお礼なのに、1人でドキドキしてしまう私はどうしちゃったんだろう?

「いえ、失礼します」

私はぺこりと頭を下げると、そのまま社長室を後にしようとした。

けれど、その時、後ろから低い声が(つぶや)く。

「やっぱり平野さんのお茶が1番おいしい」

湯呑みを口に運びつつ、社長はこちらに視線を向ける。

「またお茶が飲みたい時は平野さんに頼んでいい?」

「……はい」

嬉しい。

私は内心、胸の奥がキュンと締め付けられるのを感じつつも、平静を装って答える。

私は、そのまま一礼して社長室を後にする。


最近の私は変だ。

原因は分かってる。

分かってるけど、どうしようもない。

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