母が恋に落ちたとき……
お昼。

私は、誰もいない休憩室で同僚と3人で昼食を取る。

「ねぇ、聞いて聞いて、私見ちゃった」

噂話の好きな下里(しもさと)さんが、この時を待ってたと言わんばかりに口を開く。

「なになに?」

佐藤さんが食いつく。

真由美(まゆみ)社長が、若い男とホテルに入ってったの! 昨日!」

真由美社長というのは、うちの宮本社長の奥さん。

どちらもやり手の起業家で、結婚した時には、ニュースにもなったほどだ。

「ああ! そんなの今に始まったことじゃないじゃない。あの夫婦が終わってるのは、みんな知ってるよ。仕事上の付き合いがあるから、離婚しないだけでしょ」

佐藤さんが、なんだと言わんばかりに返す。

「そうだけどさぁ、やっぱり自分の目で見ると、実感が湧くっていうか、なんか違うじゃない?」

そう……かもしれないけど……

「社長が可哀想」

私は、ぽつりと呟いた。

社長、あんなにいい人なのに……

「まぁね、夫婦のことだから、どちらがどうとは言えないけど、でも、さすがに公然と若い男と出歩くのはちょっとね」

佐藤さんが、うなずく。

私たちは、その後も噂話に花を咲かせて、食事を終えた。
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