思い出せない約束
◇ ◇ ◇ 

私と直樹は、5歳の時に出会った。

私が年長に上がる4月、私の隣のおばあちゃんちに直樹たち家族が引っ越して来たんだ。

元々、新婚の間だけおばあちゃんと別居してた直樹の両親が、小学校に入学する前に友達を作ってあげたいと言って、年長の春から同居を始めたから。

初めは人見知りでおとなしかった直樹だけど、運動神経の良さは群を抜いていて、鬼ごっこなどの外遊びでは、あっという間にクラスのリーダー的な存在に変わっていった。

私は、そんな直樹と毎日のように転げ回って遊んだ。

小学生になり、中学生になっても、私たちは、気の置けない友人、まさにそんな感じだった。

直樹は私の初恋の人を知ってるし、私は直樹の初恋の人を知ってる。

誰に振られて、いつ初めての彼女ができたかも知ってる。

そんな私たちも一緒に過ごしたのは高校生まで。

直樹は東京の大学に進学して、私は地元に残った。

けれど、4年後、直樹は卒業と同時に帰ってきた。

1級建築士として、地元の大手建築事務所に就職を決めて。

それから、私たちは飲み仲間に変わった。

私が彼氏に振られた時も、直樹が彼女に振られた時も、2人で飲み明かした。

そういえば、直樹って結構いい男なのに、もう5年も彼女いないなぁ。



はっ!

まさか、婚姻届って……



5年前、失恋した直樹が、白紙の婚姻届を持ってた。

婚姻届を彼女に見せて、プロポーズしたら振られたって。

もう一生、結婚なんかできないって落ち込む直樹に、私は「30歳になってもお互いに独身だったら、結婚しよう」って……言った……

で、ふざけて2人で婚姻届を書いた。

届出日に直樹が30歳になる日付を入れて……



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