逃げるなんて許さない
同じ頃、探偵が紫帆のいる場所を掴んでくれた。彼女は俺が調べたマンションに住んでいるそうだ。そして、仕事は在宅勤務のため平日は一日中家にいることもわかった。

「ありがとうございました。紫帆には俺一人で会いに行きます」

探偵に笑顔でそう言い、俺はさっさとお金を払って紫帆に会いに行く準備をする。

紫帆とようやく話せる喜びに混じり、俺から逃げたことへの怒りもあった。ちょっとくらい怖がらせてもいいかもしれない。俺からもう二度と離れなくさせるにはいいだろ?

何時間もかけて紫帆のいるマンションの前まで行き、呼び鈴を押した時、とても緊張した。そして、ドアの向こうから「は〜い!」という元気で鈴を転がしたような声が聞こえた瞬間、胸がギュッと締め付けられたんだ。

紫帆は写真で見たはずの俺の顔も、名前も、忘れてしまっていた。でも、婚約者であることを告げると顔色はどんどん真っ青になっていく。まさか、婚約者がここまで追いかけてくるなんて、思ってもいなかっただろう。怯えているところも愛おしい。
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