【完】月島くんは日高さんのことがお好き。
「もう片思いして1年半?くらいだろ」
「1年と98日!」
「分かった分かった。でもさ、そんだけ長い間片思いしてんだからさ」
───せめて友達くらいになったら?
言葉は時に鋭利な刃物になる。
僕はぐさりと音を立てるように突かれた。
「桔平、君は僕の味方?それとも敵?」
「強いて言うなら傍観者」
「辛辣だ。無慈悲だ。悪魔だ」
「お前は俺と敵になりたいの?」
片思い歴1年と98日。未だに僕は心の中では“すずちゃん”と呼んでいるが、実際に声に出したことはない。いつも「日高さん」と声に出す時は苗字呼びだ。
そう、僕はこんなにも恋い焦がれた毎日を送っているのに、実はすずちゃんとは話したことも顔も合わせたこともないのだ。
友人どころか知り合いでもない。シンプルに言えば“隣のクラスの同級生”である。
「流石に付き合いたいとは思ってるんだろ?」
「つっ付き合う、そっ、僕なんかが、烏滸がましいっ・・・!」
「お前は純情な男子高校生かよ。純情通り越してムッツリじゃんお前」
だって、いざすずちゃんに話し掛けようと思っても緊張して言葉が出てこないのだ。すれ違う時なんて動悸がするし、彼女の教室の前を通るだけでも心臓が高鳴る。
他の女子には難なく話し掛けらるのに、どうして好きな子の前じゃ上手く行かないのだろうか。上手くいくコツを何度もネットやSNSで検索したのにも関わらず、実行する段階にすら至っていない。
付き合うなんて以前の問題。そもそも彼女にとって僕は知り合いの枠にも入っていない。ただの同級生。それ以上でも以下でもない。
あんなに初詣にも2年生になる前にも神社で神様に「同じクラスになれますように!」って頼み込んだのに。
同じクラスメイトの称号を持つ男達にですら嫉妬してしまうのだ。