【完】月島くんは日高さんのことがお好き。
すずちゃん、もう来ているかな。ドキドキしながら屋上へと続くドアノブに手を掛ける。ガチャリを音を立てて開けると、その隙間から彼女の姿が見えた。自然と口角が上がっていく。
「お待たせ、日高さ───」
好きな人の名前を言い掛けて、僕の足はその場に留まった。
「月島くん、」
「大丈夫?何かあった?」
振り返ったすずちゃんは、大粒の涙を零していた。
「あははっごめんね!」
戸惑っている様子の彼女は困ったように笑みを作る。そんな顔も文句無しに可愛いけれど、僕は首を横に振る。可愛くても、僕が見たいのはその笑顔じゃないのだ。
「日高さん、無理しなくていいよ」
そう言うと、笑顔を作っていたすずちゃんの口角は下がっていく。
頬を伝う涙を目で辿っていくと、その雫はぽたぽたと手に持っていたテストの解答用紙にシミを作っていった。
その後、僕はすずちゃんが落ち着くまで背中をさすることしか出来なかった。
暫くの間、彼女の涙は止まることはなく、鼻をすする声だけが耳に届く。
こんな時に限ってハンカチを持っていなかった僕は、どうして今日のラッキーアイテムはハンカチじゃなかったんだろうと後悔の念に苛まれていた。
正直ぎゅっと優しく抱きしめて慰めたかったが、色々と我慢が効かなくなりそうな自分の未来に自粛した僕を誰か褒めて欲しい。