【完】月島くんは日高さんのことがお好き。
(それって、まさか・・・入学式の日ってこと?)
「ねぇそれって、」と彼女の背中に声を掛ける。そんな幸せなことがあっていいのだろうか。僕は遠くなっていく姿を追い掛けて、呼びかけても反応してくれないすずちゃんの手を取る。
くるりと、顔が見えるようにしてその手を引くと、顔をゆでダコのように真っ赤にさせた彼女。その表情に僕は思わず、その小さな唇に口付けを落とした。突然の行動に驚いたのか、すずちゃんは身体を強張らせる。
なりふり構わず僕はそんな彼女の両手を取り、ぎゅっと手を握った。
「すずちゃん。僕を好きになってくれて、ありがとう」
見つけてくれて、好きになってくれて、夢を持たせてくれて、隣にいてくれてありがとう。何度、ありがとうと伝えても足りない。来年から文系を選択したくせに未だに語彙力の幅が狭くて、受験科目である国語が些か心配になる。だけど、すずちゃんが一緒に頑張ってくれると思ったら、そんな心配も不安も吹き飛んでいくような気がする。
「律くん。私を好きになってくれて、ありがとう」
彼女の声は少し上ずっていて、「別に泣いてなんか無いよ」と聞いてもいないのに自ら泣いていない宣言を発する。これって泣いている人が言うセリフじゃ無いかな。それもまた可愛くて、僕はおかしそうに笑う。