離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 日に当てていた小鞠の服に手を伸ばしたその時、ふと風が吹いて、十月桜の花びらがふわっと宙に舞った。
 目の前が、透明感のある薄いピンクに染まる。
 美しい花びら越しに、ただただ愛おしく、大切な二人がいる。
 あまりに綺麗な映像に、世界が一瞬、止まって見えた。
 私は、自然とそっと手を伸ばし、黎人さん小鞠を一緒にぎゅっと抱きしめる。
「今日はやけに甘えただな」
 少し嬉しそうに、ふっと、微笑する黎人さん。
 そのまま、優しく私の頭に頬を寄せる。
 少し照れくさくなりながらも、私は小さな声でつぶやいた。
「小鞠に嫉妬してしまいました」
「何だその可愛い理由は」
「なんて冗談で……」
 笑って誤魔化そうと上を見上げると、すかさずキスが落ちてくる。
 唇だけではなく、頬や瞼や額にも、何度も何度も大切そうに唇で触れてくれた。
 恥ずかしくなって避けようとする私の耳元で、黎人さんは熱っぽく囁く。
「これでも愛し足りないか」
「えっ……、えっと」
「だとしたら、まだまだ愛し甲斐があっていいな」
 私の手を握りしめて、楽しそうに微笑む黎人さん。
 出会った頃のように、いや、それ以上に、胸が高鳴る。
「ふふ、もう十分すぎます」
 すれ違った分だけ、きっと私たちの絆は強くなったと、そう思いたい。
 ここに来るまで、途方もない道のりだったけれど。
 何度も涙を流したけれど。
 全ての選択が、“今”の私たちに繋がっているから、たらればはもう言わない。
 これから先もずっと、等身大の愛を贈りあおう。
 もう二度と、本音を隠してすれ違ったりしたくない。
 愛なんて、花びらのように儚く、指の間を通り抜けてしまうものなのかもしれないけれど、きっとそれは、私たち次第。 

 黎人さんと一緒にいれば、きっとどんな時もブレずにいられる。
 それは彼が、毎日惜しみなく、教えてくれるから。
 ……大切なものは、今この手の中にあると。

 赤い椿の景色は、もう霞んでいない。
 鮮やかに、胸の中で咲き続けている。

End
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