離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 三鷹家の新しい担当者がどんな方なのかは、葉山家を継ぐ身として把握しておきたいもの。
 私と黎人さんが離婚しても、どうにかこの関係値を壊さないようにしておきたい。でも、だからと言ってあまりにもパワーバランスを崩すのは避けたい。
 そっと応接室の障子の前に座り込み、隙間から商談の様子を眺めてみる。
 三鷹家は一族経営のため、彼もきっと立派な役職をもらっているのだろう。
 慶介さんは頬杖をついて偉そうに座り込み、何やら気難しそうな顔で見積書を眺めている。
「もうちょっと安くならない? 正直他にも候補はたくさんあるんだよね」
「申し訳ございません。正当な価格で見積もらせて頂いておりますため、これ以上は……」
 葉山家の細かい事務仕事は、若い社員さんに任せている。と言っても完全に外部の方ではなく、うちの生け花教室を卒業された元生徒さんで、うちの流派を守る大切な仲間のひとりだ。
 若い男性社員が申し訳なさそうに頭を下げているのに、慶介さんはつまらなさそうにため息をつく。
「うちだってね、古いしきたりのために御社とお付き合いしてるんですよ。本音を言うと、もっと現代的なアートを取り入れた方がいいんじゃないかと思ってるんです」
「アート、ですか……」
「花なんて寿命があるし、手入れも必要ですし、正直コスパ悪いですよ? 誰が見てるという訳でもないのに……」
「お、お言葉ですが、花には花にしかない美しさがございます。それはきっと、お客様にも届いていると我々は信じております」
「はいはい、じゃあこの価格でよろしく」
 男性社員の切実な言葉を遮って、慶介さんは雑に赤ペンで見積書に価格訂正を入れる。
 それから、机に置いてあった紫色のスイートピーの花を指で撫でてため息をつく。
「こんなのにお金払うより、もっといい使い道あると思うんだけど……。ほら、今流行りのプロジェクションマッピングとかさー、あ、すまない、折れてしまった」
 彼が雑に触れたせいで、華奢な花は簡単に折れ曲がってしまった。
 その行為を見た瞬間、カッと頭に血が昇るのを感じた。
 お金のいざこざは、ビジネスだから仕方ない。コスパが悪いというのも、反論できない箇所もあるかもしれない。
 だけど、花に対する愛が全く感じられないことは、このまま黙っていられない。
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