離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 花音はとてつもなく気まずそうな顔をしている。
「もうパパじゃないよ! この人は!」
 花音の言葉にズキリと胸が痛んだが、彼女が必死になるのも当然の話だ。
 そんな顔をさせてしまうほど、俺のことが憎いのだろう。
 仕方ない。彼女にとってこの結婚は、全く望まない結婚だったのだから……。
「小鞠……、良い名前だな」
「え……」
 だけど、実際に娘を目の前にしたら、表情が自然と緩んでしまった。
 俺のそんな反応を見て花音は少し驚いている様子だったが、気を許さないようにするためか、すぐに力強い声で「あの」と切り出す。
「離婚届は、いつ提出してくださる予定ですか」
 冷たい言葉の中に、花音の硬い意思を感じる。
 娘を両腕でがっしり抱きしめながら、彼女は俺のことを睨みつけている。
「先に言っておきますが、小鞠は私の子です。絶対に渡しませんから」
 まるで敵を見るような瞳……。
 花音は、いつからこんなに強くなったのだろうか。
 それとも、強くならなければいけなかったのだろうか。……俺と結婚したせいで。
 知らなかった花音の一面を、もっともっと見てみたいと思う、この感情はいったい何だ。
「ひとつ、聞きたいことがある」
 一切目を逸らさずに、俺は彼女にずっと聞きたかったことを問いかける。
 離婚届のことを答える前に、どうしても知りたかったことを。
「シアトルに行く前に最後に会った夜……、あのときお前はなんで泣いたんだ」
 あの時、花音の綻びが少しだけ垣間見えたような気がして、涙を流した理由をずっと考えていた。
 好きな人ができたか、という最低な問いかけだった。
 だけど、俺のような興味のない相手に言われたとして、泣くほどのダメージがあっただろうか。
 花音がずっと黙って俯いているので、俺は少し不安になり、顔を覗き込むように彼女の長い髪をかき分けた。
 髪の隙間から、想像とは全く違う表情をしている花音と、バチッと目が合った。
 彼女は、こっちが動揺するくらい、顔を真っ赤に染めていたのだ。
「あの涙に、意味なんてひとつもありません」
 彼女の、顔と言葉がまったく一致していない。
 バラの花のように頬を赤く染め、羞恥心で指先をかすかに震わせている。
「私は一刻も早く黎人さんと離婚したい。それだけです」
 ……ずっと、自分の気持ちに答えを探していた。
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