離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 車の中ではすでに黎人さんのことなど頭になく、ホテルのコンセプトを頭の中に叩き込んで、お花の構想を考えることに集中しきっていた。

 side黎人

 あれから一週間が経ったが、仕事の整理で葉山家に立ち寄れない日々が続いていた。
 神楽坂での新規ホテルのオープンに合わせて日本に帰ってきたけれど、予想以上に現場が回っておらず、早々に忙殺されることとなった。
 花音と過ごしていた誰もいないマンションに、寝るためだけに帰って、出社する日々。
 けれど、どんなに忙しくとも、キスをしたあとの花音の困惑した顔が頭から離れない。
 それどころか、なかなか花音に会えないことで、苛立ちすら感じていた。

「三鷹代表、こちらです。今ロビーは込み合っているので裏口から行きましょう」
 秘書の鈴鹿(すずか)が、新規ホテルの入口で俺を待機していた。
 長い黒髪をきっちり低い位置でお団子にし、タイトスカートを着こなしているその姿は、まるでCAのような風貌だ。
 仕事ができるので、スケジュールの進行管理はすべて彼女に任せている。
「待たせたな。準備は予定通りに進んでいるか」
「はい、今のところ大きな事故もなく進んでいるようです。取引先の方々がご挨拶に来るまで、ひとまず応接室にてお待ちください」
 色々あったけれど、今日は多忙の原因である新規ホテルオープン前日の立ち合いだ。
 お客様が第一に目にするロビーには、今回も葉山家に依頼し、豪華なお花を生けることを決めていた。
 こういった大きな作品の時は、いつも花音のお母様が来ることになっている。そして、装飾周りは現場のものに任せていたので、俺は今回一切関与していない。
「たしかにロビーが混んでいるな。花の搬入か」
「はい、そのようですね」
 最終チェックの確認だけ依頼されているけれど、忙しくなる前に花音のお母様に挨拶できるだろうかと、俺は足を止めた。
 遠目でしか見えないが、色とりどりの大きなお花がロビーに溢れかえっている。花音のお母さまが到着したのか、周りに人も増えていた。
「少し挨拶をしてくる」
「ついて行きます」
 人をかき分けロビーに行くと、鮮やかな花に囲まれている、淡い水色の着物姿の女性が見えてきた。
 なんだか、花音のお母様にしては、少し背が低く感じる。
 彼女が花を取りに横を向く。その横顔を見て、俺はその場に硬直した。
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