離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 俺は気づいたら走って花音に駆け寄り、自ら盾になっていた。
 そこそこの重さの段ボールが、俺の背中を滑って、下に落ちていく。
「え……?」
 驚く花音に、業者が慌てた様子で「大丈夫ですか!」と声を裏返し駆け寄ってくる。
 俺は「大丈夫だ」と制して、尻もちをついている花音に手を伸ばした。
「花は無事か」
「あ、は、はい……」
 花音は俺のことを見上げて、目を丸くし驚いている。彼女は着物を器用に扱って立ち上がると、ぺこっと頭を下げた。
「た、助けて頂き、ありがとうございます……」
「花が大事なのは分かるが、あまり無茶するな」
 そう言って何事もなかったように立ち去ろうとしたけれど、顔面蒼白となったスタッフたちが、駆け足でわらわらと集まってきた。鈴鹿も焦った様子で「お怪我はないですか」と聞いてくる。
 俺はそのすべてを遮って、ひらっと片手を振った。
「何も問題ない。皆自分の仕事に集中してくれ」
 俺はそれ以上花音を見ることなく、背を向けて応接室へと向かった。
 彼女が生けた素晴らしい作品が、なぜか自分のことのように誇らしく、そう思う自分の感情についていけない。
 ますます、花音のことが欲しいと感じた。
 結婚しているのに、欲しいと感じるだなんて、おかしな話だろうか。

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