離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 ハッキリとそう伝えると、彼女はグッと泣かないように顔を顰める。
 今、かなり不毛な時間が流れていることに、もう彼女自身も気づいているだろう。
 俺の気持ちは決して揺らがないし、ましてや鈴鹿に恋愛感情を抱くことなどありえない。
「苦学生だった私を雇って頂けたこと……、感謝しています。私は、代表に何度も助けられてからずっと……」
「諦めてもらえないのだったら、辞めてもらうしかない」
「え……?」
 そこまで言うと、鈴鹿はショックで押し黙ってしまった。
 俺も気まずい気持ちになり、「もう帰ろう。ホテル長にすこし話があるから立ち寄ってくる」と言って席を立つ。
 その間に少しでも気持ちを落ち着けてもらえたらいいけれど……。いずれにせよ、彼女と一緒に働くことはもう難しい。明日にでも代わりの秘書を探してもらおう。

 少し動揺していたせいで、俺は私用のスマホをデスクの上に置いたまま、個室を出ていった。
 その直後に花音からの着信があったことに気づくことなく、俺は重たい扉を閉めたのだった。

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