離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
でも、彼は、それだけを利点として考えて結婚することを、心配してくれている。
しきたりに歯向かい、縁談を断るなんてこと、今まで考えたこともなかったから、私はすっかり驚いてしまっていた。
何と答えたらいいのか分からず黙り込んでいると、ふと、黎人さんの背後に咲いていた椿の花が、ポロッと落ちそうになった。
私は瞬時にその花を両手で受け取ろうとして、下駄で躓きそうになる。
「危ない」
黎人さんにお腹辺りに腕を回され、何とか着物を汚さずには済んだ。
急に近くなった距離感に、心臓がバクバクと激しく鼓動していたが、赤い椿はしっかり私の両手の中に収まっている。
「す、すみません、思わず反射的に……。椿の花は元から落ちるものですが……」
「……落ちる瞬間、初めて見たな。怪我がないならよかった」
「ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げて、黎人さんからすぐに離れる。
私は椿の花を見つめながら、しばらく沈黙が続いていたので、花に関する話をしてみることにした。
「椿の花は、首が落ちるように散るから不吉だと言われていますが、じつはただの迷信という説もあります。江戸時代に、町民の間で花の窃盗が起きたから、それを鎮めるために武家が嘘をついたとか……、色んな噂がありますが……」
「へぇ……、そうなのか」
「不吉とされる一方で、“散り方が潔く綺麗な花”とも言われることがあります」
「潔い散り方、ねぇ……」
「私の人生も、椿のようでありたいと、そう思っています」
こんな小娘の話を聞いても、彼はつまらないだろうけれど。
黎人さんは真剣なまなざしで、私の話を静かに聞いてくれている。
さっき、黎人さんは“自分の人生をちゃんと歩んだ方がいい”と、言ってくれたけれど、それに対する私の答えをちゃんと知ってほしいと思ったのだ。
「私は花と一緒に生きて、花と一緒に散っていくことが本望です。生きている限り、花と向き合い続けます。葉山家に生まれて、幸運だったと思っています」
「……そうか」
「私の全てであるお花がそばにあれば、その他の人生は些細なことでございます」
そう答えると、黎人さんは眉を少しだけハの字に下げて、「立派な後継ぎだ」とつぶやいた。
まだ私に対する不安は拭いきれていないような表情だったけれど、私は自分の気持ちを彼にまっすぐに伝えたつもりだ。
「貸して」
しきたりに歯向かい、縁談を断るなんてこと、今まで考えたこともなかったから、私はすっかり驚いてしまっていた。
何と答えたらいいのか分からず黙り込んでいると、ふと、黎人さんの背後に咲いていた椿の花が、ポロッと落ちそうになった。
私は瞬時にその花を両手で受け取ろうとして、下駄で躓きそうになる。
「危ない」
黎人さんにお腹辺りに腕を回され、何とか着物を汚さずには済んだ。
急に近くなった距離感に、心臓がバクバクと激しく鼓動していたが、赤い椿はしっかり私の両手の中に収まっている。
「す、すみません、思わず反射的に……。椿の花は元から落ちるものですが……」
「……落ちる瞬間、初めて見たな。怪我がないならよかった」
「ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げて、黎人さんからすぐに離れる。
私は椿の花を見つめながら、しばらく沈黙が続いていたので、花に関する話をしてみることにした。
「椿の花は、首が落ちるように散るから不吉だと言われていますが、じつはただの迷信という説もあります。江戸時代に、町民の間で花の窃盗が起きたから、それを鎮めるために武家が嘘をついたとか……、色んな噂がありますが……」
「へぇ……、そうなのか」
「不吉とされる一方で、“散り方が潔く綺麗な花”とも言われることがあります」
「潔い散り方、ねぇ……」
「私の人生も、椿のようでありたいと、そう思っています」
こんな小娘の話を聞いても、彼はつまらないだろうけれど。
黎人さんは真剣なまなざしで、私の話を静かに聞いてくれている。
さっき、黎人さんは“自分の人生をちゃんと歩んだ方がいい”と、言ってくれたけれど、それに対する私の答えをちゃんと知ってほしいと思ったのだ。
「私は花と一緒に生きて、花と一緒に散っていくことが本望です。生きている限り、花と向き合い続けます。葉山家に生まれて、幸運だったと思っています」
「……そうか」
「私の全てであるお花がそばにあれば、その他の人生は些細なことでございます」
そう答えると、黎人さんは眉を少しだけハの字に下げて、「立派な後継ぎだ」とつぶやいた。
まだ私に対する不安は拭いきれていないような表情だったけれど、私は自分の気持ちを彼にまっすぐに伝えたつもりだ。
「貸して」