離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
どうしたらいい side黎人
▼どうしたらいい side黎人
八月に入り、同棲を開始してから、一カ月が経とうとしていた。
花音からのキスの真意は分からないまま、相変わらず距離は縮められずにいる。
何かが、ずっと掛け違えているような、そんな気がしている。
花音の瞳の奥に潜む悲しみを、彼女は語ろうとはしてくれない。
結局のところ、離婚したい理由は、本当にただ「政略結婚などバカバカしい」と感じるようになったからなのだろうか。
でも、お見合いの時の彼女のことを思うと、それは到底考えづらいことのようの思える。
社長室で、ひとりぐるぐるとそんなことを考えていると、軽いノック音が聞こえてきた。
「兄さん、お疲れ様。今日の周年記念イベントのことだけど……」
返事をする前に颯爽と入ってきたのは、弟の仁だ。
彼が発した“イベント”という言葉を聞いて、俺は一気に顔面蒼白となった。
「しまった、今日だったか……」
「あれ、もしかして忘れてたの?」
「ずっと鈴鹿が管理してたからな」
「そっか、新しい男の秘書が来るのは来月からなんだっけ」
鈴鹿とは、あの一件があってから、仕事上では関わっていない。
グループである仁の会社へ異動の辞令を出して、来月からは仁の下で働いてもらうことになっているのだ。
今は彼女は異動の準備期間と称して、事務作業を別で行ってもらっている。
「まさか長年担当していた鈴鹿さんを外すなんて、何かあったとしか思えないなー」
「……あまり詮索するな。彼女は仕事はできるから、よろしく頼む」
「まあ、だいたい想像できるけどねー」
仁は面白がるようにそう言い放つけれど、俺は一切表情を崩さずに、周年記念イベントの資料に目を通した。
今日行われるのは、本店である日比谷のホテルでのイベントだ。
各関係者を呼ぶことになっており、中にはもちろん葉山家の名前も載っていた。
家ではまだちゃんとした会話がないので気づかなかったけれど、花音も今日のイベントに来るのだろうか。
なんて思っていると、仁がタイミングよく「花音さんも今日来るんだね」と言ってきた。
「さっきう打ち合わせ中の家元と偶然ロビーで会ってさ。今日は娘がひとりで行くからよろしくって」
「……そうか」
「朝の会話でそういうこと話さないの?」
「花音は、俺より朝早く稽古に出ているからな」
八月に入り、同棲を開始してから、一カ月が経とうとしていた。
花音からのキスの真意は分からないまま、相変わらず距離は縮められずにいる。
何かが、ずっと掛け違えているような、そんな気がしている。
花音の瞳の奥に潜む悲しみを、彼女は語ろうとはしてくれない。
結局のところ、離婚したい理由は、本当にただ「政略結婚などバカバカしい」と感じるようになったからなのだろうか。
でも、お見合いの時の彼女のことを思うと、それは到底考えづらいことのようの思える。
社長室で、ひとりぐるぐるとそんなことを考えていると、軽いノック音が聞こえてきた。
「兄さん、お疲れ様。今日の周年記念イベントのことだけど……」
返事をする前に颯爽と入ってきたのは、弟の仁だ。
彼が発した“イベント”という言葉を聞いて、俺は一気に顔面蒼白となった。
「しまった、今日だったか……」
「あれ、もしかして忘れてたの?」
「ずっと鈴鹿が管理してたからな」
「そっか、新しい男の秘書が来るのは来月からなんだっけ」
鈴鹿とは、あの一件があってから、仕事上では関わっていない。
グループである仁の会社へ異動の辞令を出して、来月からは仁の下で働いてもらうことになっているのだ。
今は彼女は異動の準備期間と称して、事務作業を別で行ってもらっている。
「まさか長年担当していた鈴鹿さんを外すなんて、何かあったとしか思えないなー」
「……あまり詮索するな。彼女は仕事はできるから、よろしく頼む」
「まあ、だいたい想像できるけどねー」
仁は面白がるようにそう言い放つけれど、俺は一切表情を崩さずに、周年記念イベントの資料に目を通した。
今日行われるのは、本店である日比谷のホテルでのイベントだ。
各関係者を呼ぶことになっており、中にはもちろん葉山家の名前も載っていた。
家ではまだちゃんとした会話がないので気づかなかったけれど、花音も今日のイベントに来るのだろうか。
なんて思っていると、仁がタイミングよく「花音さんも今日来るんだね」と言ってきた。
「さっきう打ち合わせ中の家元と偶然ロビーで会ってさ。今日は娘がひとりで行くからよろしくって」
「……そうか」
「朝の会話でそういうこと話さないの?」
「花音は、俺より朝早く稽古に出ているからな」