離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
その瞬間、悶々とした考えが全て弾け取んで、気づいたら目の前にいる社長と御令嬢に頭を下げていた。
「申し訳ございません。また改めてご挨拶をさせてください。すぐに参ります」
俺は人をすり抜けて花音の元まで近づき、彼女の肩を掴もうとしていた呉服屋の男性の間に、割って入った。
「失礼、伊勢谷(いせや)呉服店のご長男様ですよね。ぜひご挨拶させてください」
「え……、あ! これはこれは、三鷹代表自ら来て頂けるとは……」
「それから、ぜひ彼女のことも紹介させてください。……私の妻の、花音です」
ぐっと彼女の肩を抱き寄せて、牽制するようにそう伝えると、その男性はヒュッと喉の音を鳴らして顔を青くした。
花音は隣で俺の強引な行動に戸惑っているけれど、一切この場を引く気にはなれない。
笑顔を崩さないまま、瞳の奥で呉服屋を睨みつけていると、彼は乾いた笑みを浮かべながら「大変失礼いたしました。これからもどうぞ御贔屓に……」と言いながらそっと去っていった。
その姿を見送りながら、ふぅと安堵のため息を漏らしていると、隣で花音からじっと視線を送られていることに気づく。
俺は慌てて彼女の肩から手を離すと、「すまない」と小声で謝った。
離婚するのに紹介されても困るとか、そんなことをきっと思っているだろう。
なんて考えていたけれど、花音の口から発せられたのは意外な一言だった。
「いえ……、今のは困っていたので、助かりました」
少し照れくさそうにつぶやく花音に、どきりと心臓が跳ねる。
下を俯いているのでどんな顔をしているのかは分からないけれど、久々に彼女と会話ができた。
「ではここで私は……」
今を逃したら、またきっとすれ違う。
なぜか、直感的にそう思った俺は、去ろうとする彼女の腕をぐっと掴んで引き留めた。
「三十分後くらいに、二階の控室に来てくれ。一緒に飲もう」
「え……」
「花音と話したい」
真剣な声で伝えると、花音は少し戸惑いながらも、ぎこちなくこくんと頷いてくれた。
俺はほっと胸を撫でおろし、「また後で」と言って彼女の腕を離す。
人ごみに紛れ消えていく彼女のうしろ姿を見守りながら、俺もまた、仕事モードへ戻ることにした。
花音のことを思いながら、六年前のことを思い出す。
彼女とお見合いをした日、俺は「仕事が最優先だ」と宣言していた。正直、相手など誰でもいいと。
「申し訳ございません。また改めてご挨拶をさせてください。すぐに参ります」
俺は人をすり抜けて花音の元まで近づき、彼女の肩を掴もうとしていた呉服屋の男性の間に、割って入った。
「失礼、伊勢谷(いせや)呉服店のご長男様ですよね。ぜひご挨拶させてください」
「え……、あ! これはこれは、三鷹代表自ら来て頂けるとは……」
「それから、ぜひ彼女のことも紹介させてください。……私の妻の、花音です」
ぐっと彼女の肩を抱き寄せて、牽制するようにそう伝えると、その男性はヒュッと喉の音を鳴らして顔を青くした。
花音は隣で俺の強引な行動に戸惑っているけれど、一切この場を引く気にはなれない。
笑顔を崩さないまま、瞳の奥で呉服屋を睨みつけていると、彼は乾いた笑みを浮かべながら「大変失礼いたしました。これからもどうぞ御贔屓に……」と言いながらそっと去っていった。
その姿を見送りながら、ふぅと安堵のため息を漏らしていると、隣で花音からじっと視線を送られていることに気づく。
俺は慌てて彼女の肩から手を離すと、「すまない」と小声で謝った。
離婚するのに紹介されても困るとか、そんなことをきっと思っているだろう。
なんて考えていたけれど、花音の口から発せられたのは意外な一言だった。
「いえ……、今のは困っていたので、助かりました」
少し照れくさそうにつぶやく花音に、どきりと心臓が跳ねる。
下を俯いているのでどんな顔をしているのかは分からないけれど、久々に彼女と会話ができた。
「ではここで私は……」
今を逃したら、またきっとすれ違う。
なぜか、直感的にそう思った俺は、去ろうとする彼女の腕をぐっと掴んで引き留めた。
「三十分後くらいに、二階の控室に来てくれ。一緒に飲もう」
「え……」
「花音と話したい」
真剣な声で伝えると、花音は少し戸惑いながらも、ぎこちなくこくんと頷いてくれた。
俺はほっと胸を撫でおろし、「また後で」と言って彼女の腕を離す。
人ごみに紛れ消えていく彼女のうしろ姿を見守りながら、俺もまた、仕事モードへ戻ることにした。
花音のことを思いながら、六年前のことを思い出す。
彼女とお見合いをした日、俺は「仕事が最優先だ」と宣言していた。正直、相手など誰でもいいと。