離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 ……でも、その仮面を剥がすかどうかは、自分達で決めることだ。

「三鷹黎人の妻です。面会をお願い致します!」
 病棟に入ると、思ったよりも焦った声が、喉を貫いた。
 黎人さんに会いたい。その感情が、私の体を突き動かす。
 看護師さんに案内された部屋に向かい、私は勢いよくドアを開けた。
「黎人さんっ……」
 個室の部屋に入ると、そこには綺麗な寝顔で静かに寝息を立てている黎人さんがいた。
 窓が少しだけ開けられていて、細い風が彼の前髪をふわっと浮かせた。
 肌の色は少しだけ青白く、どれだけ今まで多忙な毎日を送っていたかが想像つく。
 同じマンションに住んでいたのに、私はまた、彼と向き合っていなかった。
 黎人さんは何度も、歩み寄ろうとしてくれていたのに。
 鈴鹿さんとのことが全て勘違いだったと知った今、どんな言葉を彼にかけたらいいのだろうか。
 ベッドのそばにあった丸椅子に座ると、私はそっと彼の頬に手の甲で触れてみた。
 ……温かい。ちゃんと呼吸はできている。そのことに、心底ほっとする。
 黎人さんが倒れたと聞いた時、一瞬頭の中が真っ白になった。
 それほど彼のことが大切なのだと、もう認めざるを得ない。
「黎人さん。目が覚めたら、話したいことがあります……」
 ぽつりとつぶやくと、自分の中に溜め込んでいた感情が一気に溢れだしそうなった。
 鈴鹿さんとのことが無くても、きっと私はいつか、黎人さんから逃げ出したくなっていただろう。
 結婚当初。好きになりすぎたらダメだと分かっていても、あなたが玄関のドアを開けた音がした時、私の胸は少女のように毎回高鳴っていた。
 今日こそは話しかけてみよう。今日こそは一緒に食事を誘ってみよう。今日こそは……。
 そう思う度に、お見合いであなたに言われた言葉が私のことを苦しめたのだ。
 『結婚相手は誰でもいいと思っている。仕事にしか時間を割く余裕がない』
 そう、誰でもよかった。私も、それは同じだった。
 だから、この距離を縮めることは、互いのためにはならないと、何度も何度も言い聞かせて。

 でももう、それが苦しい。
 私は、あなたを愛してみたい。
 だから、本当の黎人さんを見せて。

「黎人さんの、本音が知りたいです……」
 震えた声でそうつぶやいて、私は目を閉じ彼の胸に自分の頭をそっと乗せた。
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