離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 すると、髪の上に重みを感じて、私はそのまま目を見開いた。
「俺も、君の本当が知りたい」
「れ、黎人さん、いつから起きて……」
「頬に触れられて起きた。さっきのこと、驚かせてしまいすまなかった」
 黎人さんはゆっくり体を起こすと、座っている私としっかり目を合わせてくれた。
 いつも髪をしっかり整えている彼なのに、今はラフに前髪も全部下りている。
 彼の言う“さっきのこと”とは、鈴鹿さんとのことだろう。
「彼女は俺の元秘書で、今は別の仕事を任せている。もちろん仕事以外で何の関係もない。抱き合ったように見えたかもしれないが、ちょうど眩暈がして彼女の方向に倒れこんでしまったんだ。信じてもらえないかもしれないが……」
「はい、信じます」
「え……?」
「信じるので、全部聞かせてください」
 そう伝えると、黎人さんは驚いたように目を見開き、それから、ゆっくり状況を説明してくれた。
 鈴鹿さんから告白されてもう一緒に仕事はできないと思ったこと、いたずらに私用の電話に出られてしまったこと、控室の前で勝手に待ち伏せされていたこと。
 私から目を逸らさずに、彼は落ち着いた口調で全てを教えてくれた。
 話を聞けば聞くほど、自分の中で申し訳ない気持ちがどんどん膨らんでいく。
「本当に全部、私の勘違いだったんですね……。申し訳ございません」
「なぜ花音が謝る。確認し辛い空気にしていたのは……俺だ」
「いえ、それは、お互い様です。私もプライドが邪魔して、電話のことを触れられずにいました」
 二人して謝ると、しん、と沈黙が続く。
 晴れて全て誤解だと分かったけれど、これからの私たちは、どうしよう。
 勘違いで離婚届を突き付けておいて、今さら一緒に暮らしたいなんて虫が良すぎる話だ。
 どう切り出したらいいのか分からず黙っていると、黎人さんがゆっくり口を開いた。
「本当はどんな用事で、電話をくれたんだ、花音」
「え……?」
「君も俺も、お互いを知らなさすぎる。些細なことでも、教えてほしい」
 少し弱気な声でそう言われ、私は少し動揺した。
「に、二回目の電話は引っ越しのことで確認があったので……。一回目は……」
 そこから先を、どんな風に話そうか迷っていると、黎人さんが私の顔を両手で包み込みながら、「一回目は?」と切実に問いかける。
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