離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 すでに私服に着替えた、紺色のシャツ姿の黎人さんは、血色もよく完全に回復している様子で安心した。
「今日一日はお母さんが見てくれるって」
「そうか……、あとで報告とお礼の電話をしておく」
 退院の手続きを諸々済ませて、お手伝いさんたちと一緒に車へ荷物を運び出す。
 倒れた理由はやはり過労と診断され、今週は仕事を休むように日程をなんとか調整したようだ。
 新しい秘書は男性らしく、予定よりも早めに勤務についてくれるようで、黎人さんの仕事量もこれで少しは減るとのいいのだけれど。
 後から聞いた話だけれど、鈴鹿さんは異動の予定だったけれど、自ら会社を辞めると言い渡したらしい。
 あんな話し合いでよかったのかいまだに分からず、少し気持ちがもやもやするけれど、彼女が辞めたと聞いて少しほっとしてしまったことは事実だ。
 そんな風に思っていいのか、分からないけれど……。
「花音、どうした?」
「あ、いえ、何も!」
 黎人さんと一緒に後部座席に乗り込み、少しぼうっとしていると、彼が心配したような表情で顔を覗き込んでくる。
 私は慌てて手を横に振り何でもないことを伝えるけれど、黎人さんは「ん?」と言って私の言葉を待っている。
 病み上がりの黎人さんに心配をかけてしまうなんて、申し訳ない……。
 そう思ったけれど、不安に思っていることはすぐに伝えるべきだと、私は今回のことで嫌というほど学んだのだ。
「鈴鹿さんが辞めたと聞いて、これで一件落着したと思っていいものか、モヤモヤしてしまい……、すみません」
「花音が気に病むことは何もない」
「はい、そうですよね……」
 もちろん、嘘ばかりついた彼女を許すことはできないけれど、自分も少し言い過ぎただろうかとか、同じ年代の女性として、多少なりとも少し気にかかる部分はある。
 こんなことを蒸し返しても、黎人さんは絶対にいい気はしないことは分かっているけれど。
 私が浮かない顔をしていると、黎人さんは言いづらそうに口を開いた。
「花音がお人好しなのは分かっているが、君が心配などする必要は本当に全くないからな。会社を辞めた理由も、罪意識からとかではなく、俺の次に目をつけていた社長の秘書になるためにコロッと切り替えたかららしいぞ」
「……え!?」
「仁の知り合いの社長でな。もう面接に来たらしい」
「あ、あんなに黎人さんの想いを語っていたのに……!?」
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