離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 すると、彼はふっと笑って、「悪い」と全く申し訳なくなさそうに、一言謝った。
「反応が可愛くて、つい」
「あ、悪趣味です……」
 照れながらふいと目線を逸らした瞬間、胸に甘い刺激を感じた。
 自分の意識が、どこか遠くに行ってしまいそうになる、この感覚。
 久々過ぎて、どうしたらいいのか分からなくなる。
 必死に声を押し殺して口元を手の甲で隠していると、すぐに強引に剥がされた。 
 そして、優しく愛撫されながら、深いキスをされる。
「んっ、黎人さん……っ」
「その声、そそる。もっと聞きたい」
 太ももを、彼の大きな手が優しく撫でる。
 触れ方はやさしいのに、キスは息継ぎも許さないほど強引で、意識が飛びそうになる。
 強引さは、小鞠を授かった“あの日の夜”と変わらないのに、全身が熱い。
 思いが通じ合ってする行為が、こんなにも多幸感に溢れているだなんて、知らなかった。
「花音。……好きだ」
「んっ……、はぁっ……」
「もう二度と。離さない」
 太ももにキスをされ、チュッというリップ音が、部屋の中に響く。
 彼にすべてを見られている恥ずかしさで、頭がどうにかなってしまいそうだ。
 でも、黎人さんが何度も私の名前を呼びながら触れてくれることが、泣きそうなほど嬉しい。私もそれに応えるように、何度も黎人さんの名前を呼ぶ。
 彼の熱が体の中に入ってくるのを感じて、私は思わずぎゅっと目を閉じた。
 すると、緊張をほぐすように、すぐに瞼にやさしいキスが降ってくる。
 なんとか目を開けると、そこには、優しい瞳をした、愛しい黎人さんがいる。
 私への愛情がその瞳に滲み出ているように感じて、何だか泣きそうになった。
「大好きです、黎人さん……」
「花音っ……」
 自然と溢れた言葉に、彼はキスで応えてくれた。

 愛なんて、結婚に必要ないと思っていた。
 自分の人生には、“花”があればそれでいいと。
 それは本当に心から思っていることだったし、そう思っていたことが間違いだとは今も思わない。
 だけど、いつしか黎人さんを愛し、同じ気持ちになりたいと、思うようになってしまった。
 結婚をしているのに、片思いをしているような、そんな気持ちだった。
 黎人さんの冷たい瞳に少しでも映ってみたいと、欲をかいてしまったんだ。
 そして、沢山のすれ違いを経て、ようやく、私たちはひとつになった。

< 82 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop