離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~

離れたくない side黎人

▼離れたくない side黎人
 
 『黎人さんとの結婚は、私の本望でした』
 そう言われたとき、今まで胸の中に痞えていた“罪悪感”の塊のような物が、優しく溶けていくのを感じた。
 花音を見るたびに、愛していいのか、距離を置いた方がいいのか、ずっと分からないで過ごしていた。
 でも、そんな二択で迷っていたということは、既に花音のことを可愛いと思ってしまっていたんだろう。
 心配になるほど控えめだと思いきや、仕事に対しては芯が一本通っていて頼もしい。葉山家の長女としての器を、十分すぎるほど備えている彼女。
 結婚して、一緒に過ごすうちに、そんな花音のことがもっと知りたいと思うようになっていった。
 きっとまだまだ、俺の知らない花音がたくさんいるんだろう。
 そう思うだけで、胸の中が華やぐ。
 ……花音が、愛おしい。
 その感情は、魔法のように、俺の凍てついた心を溶かしていく。
 仕事だけでいいと思っていた自分が、今では信じられないほどに。

 季節は移ろいで、葉が赤く染まる季節になった。
「小鞠の目は、花音にそっくりで、丸くて可愛い」
「え、なんですか、突然」
「鼻も眉毛の形も似てる。可愛い」
 休日の昼下がり。ソファーの上で小鞠をじっと見つめながらロボットのようにつぶやいていると、花音がふふっと笑った。
 仕事とはいえ、俺は出産にも立ち会えず、可愛い盛りの大事な時間を海外で過ごしてしまった。
 いくら時間を取り戻したいと思っても、取り戻せるものではないから、これからどう一緒に過ごしていくかを大切にしたいと思う。
「ぱーぱ、まんま」
「本当にご飯のことしか言わないな、小鞠は……」
「すみません、誰に似たのか食欲旺盛で……」
 あはは、と隣で花音が苦笑いしている。
 俺は小鞠を膝の上に乗せて、手に持っていた子犬のイラストカードを見せる。
「いいか小鞠、今から見せるイラストをよく見て。これは何?」
「わんにゃん」
「違う違う、混ざってる」
「わんにゃあー」
「わんわんだ、これは。わんわんも正式名称ではないけどな」
 苦戦している俺を見て、花音はまたくすくすと笑っている。
 よほど俺に似合わない光景だと思っているんだろう。自分でもそれは分かっている。
 でも、今膝の上にある小さな命が、抱きしめて閉じ込めたくなってしまうほど大切で愛おしい。
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