俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

◇◇◇

年末には課恒例の忘年会が行われ、奈々は同僚の朋子と参加した。

「朋ちゃん、ビール」

奈々が朋子のグラスにビールを注ごうとすると、朋子は慌ててグラスを取り上げる。

「ごめん、今日はウーロン茶で」

「そうなの?珍しいね、体調でも悪いの?」

奈々が首をかしげると、朋子は声のトーンを落として奈々にだけ聞こえるように言う。

「実は妊娠してるんだ」

「えっ!」

思わず声をあげた奈々に、朋子は人差し指をあてがう。

「しーっ!まだ上司には話してなくて。安定期になったら話そうかなって思ってる」

「そうなんだ。悪阻とかないの?」

「幸いほとんどないんだよねぇ。だから普通に食べてるし普通に仕事もしてるでしょ」

確かに、まだ妊娠初期とはいえ社内での朋子はいつも通りで、奈々はまったく気付かなかった。

気付けばじーっと朋子のお腹を見てしまっている。

「まだ膨らんでないね?」

「まだまだみたいよ?」

「いいなぁ。あやかってもいい?」

「ん?」

「お腹触っていい?」

「いいけど?」

奈々はそっと朋子のお腹に触れた。まだ何も膨らみを感じないが、ここに赤ちゃんがいるんだと思うと不思議な気持ちになる。

(私にも赤ちゃんきてくれますように)

祈るように心の中で唱えた。
朋子はそんな奈々に目を細める。

「あっ、朋ちゃん、妊娠おめでとう!」

思い出したかのように小声で祝う奈々に、朋子も明るく笑い、小声で言った。

「ありがとう。奈々のとこにも赤ちゃんくるといいね」

「うん」

友達の妊娠報告は嬉しさと羨ましさと半々に、それでも奈々の心に希望を灯した。
< 103 / 111 >

この作品をシェア

pagetop