俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇◇◇
年末には課恒例の忘年会が行われ、奈々は同僚の朋子と参加した。
「朋ちゃん、ビール」
奈々が朋子のグラスにビールを注ごうとすると、朋子は慌ててグラスを取り上げる。
「ごめん、今日はウーロン茶で」
「そうなの?珍しいね、体調でも悪いの?」
奈々が首をかしげると、朋子は声のトーンを落として奈々にだけ聞こえるように言う。
「実は妊娠してるんだ」
「えっ!」
思わず声をあげた奈々に、朋子は人差し指をあてがう。
「しーっ!まだ上司には話してなくて。安定期になったら話そうかなって思ってる」
「そうなんだ。悪阻とかないの?」
「幸いほとんどないんだよねぇ。だから普通に食べてるし普通に仕事もしてるでしょ」
確かに、まだ妊娠初期とはいえ社内での朋子はいつも通りで、奈々はまったく気付かなかった。
気付けばじーっと朋子のお腹を見てしまっている。
「まだ膨らんでないね?」
「まだまだみたいよ?」
「いいなぁ。あやかってもいい?」
「ん?」
「お腹触っていい?」
「いいけど?」
奈々はそっと朋子のお腹に触れた。まだ何も膨らみを感じないが、ここに赤ちゃんがいるんだと思うと不思議な気持ちになる。
(私にも赤ちゃんきてくれますように)
祈るように心の中で唱えた。
朋子はそんな奈々に目を細める。
「あっ、朋ちゃん、妊娠おめでとう!」
思い出したかのように小声で祝う奈々に、朋子も明るく笑い、小声で言った。
「ありがとう。奈々のとこにも赤ちゃんくるといいね」
「うん」
友達の妊娠報告は嬉しさと羨ましさと半々に、それでも奈々の心に希望を灯した。