俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
早速ストローをさして飲むと甘ったるさが空っぽの胃にじんわりと広がっていく。イチゴミルクと倉瀬の不器用な優しさが混じりあって、奈々の体に優しく染み渡っていった。

「私の方がお礼しなきゃなのに……。ありがとうございます。倉瀬さんって優しいんですね」

奈々が素直な気持ちを伝えると、倉瀬は目を見開く。優しいだなんて記憶の限り言われたことがない倉瀬は、予想外の出来事に柄でもなく戸惑った。

(俺が、優しい……?)

倉瀬は口元を手で覆う。自分の人生でこれまで自ら人を手伝ったり労ったりしたことがあっただろうか。考えてみるが何一つ思い浮かばず、余計に自分の行動に疑問を感じる。

(見かねて手を貸しただけだ。ただ、それだけだ)

そう思うのに、結論付けるには何かしっくりこない。

目の前の奈々はそんな倉瀬の気持ちなど露知らず、自然な上目遣いでニッコリと微笑む。その素直な気持ちと穏やかな笑顔に、倉瀬は心にふわっとした感情が芽生えるのを感じた。

「そうだ、今度は私が飲み物を奢りますね」

イチゴミルクを飲みながら甘い香りを漂わす奈々は仕事の疲れをまるで感じさせない。むしろ隣にいるだけで癒されるようだ。

小さな口で上品にストローを咥える姿。髪を耳に掛ける仕草。瞬きをしたあと倉瀬を見て優しく微笑む姿。女性らしく可愛らしい声。穏やかな口調。

「倉瀬さん?」

不思議そうに首を傾げる姿まで愛おしいものに見えてくる。倉瀬はたまらなく自分のものにしたいという衝動に駆られた。

「どうかしましたか?」

「……いや、お礼なら今もらう」

「えっ?」

倉瀬はボソリと呟くと奈々に暗い影を落とす。奈々が顎をすくわれたと思った瞬間、気付いたときには唇を塞がれていた。

それは、イチゴミルクよりも甘いキスだった。
< 19 / 111 >

この作品をシェア

pagetop