俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇◇◇
休日の倉瀬は仕事をするか読書をするかというインドアな過ごし方をしているが、今日は大型書店に出向いていた。電子よりも紙で、さらには手に取って選びたい倉瀬にとって唯一の外出といっても過言ではない。
外はカラッと晴れて天気がよく、用事を済ませたら少しブラブラと散歩でもして帰ろうかとぼんやり考えるほど穏やかだったのに、早々に外出したことを激しく後悔することになった。
「ねえ、祐吾ってば~。待ってよ~」
「ちっ」
倉瀬は大きく舌打ちをする。
ゆるふわに巻かれた髪の毛を可愛く揺らしながら倉瀬を追いかける女は、甘ったるい声で名前を呼んだ。
「祐吾ぉ、聞いてる?」
「聞いてない」
足早に去ろうとする祐吾だったが、彼女はしっかりと着いてくる。
学生の頃から気まぐれで何度か遊んだ女にばったり出会ってしまったのだ。一時は倉瀬の彼女という位置付けだったが、倉瀬的には適当に遊んで適当に別れた記憶だ。それがいけなかったのだろう。彼女はここで倉瀬に出会ったのを運命とばかりにテンション高く付きまとっていた。
「ねえ、何でメールの返事くれないの?いつも私の一方通行だよぉ。寂しいんだからねっ」
「は?」
言われて、そういえばメールも無視していた気がすると頭の片隅を過った。が、すぐにどうでもいいと思考は元に戻る。
「祐吾ぉ。たまには遊んでよぉ。私、寂しくて泣いちゃうよ?」
彼女は甘えた声を出しながら倉瀬の腕に自然と絡みついた。
(面倒くせぇ!)
倉瀬はキレそうになりながら、さてどうしたものか、そこの交番にでも押し込んでやろうかとうんざりしながら足を進めた。
と、倉瀬は反射的に腕に絡んでいた彼女を思いきり引き剥がした。
「痛いっ!祐吾っ!」
思った以上に強い力だったのだろう。倉瀬の耳に悲痛な声が響いたが、そんなものは一瞬にして抜けていく。プリプリと彼女が頬を膨らましていることすらどうでもよかった。
「……奈々」
倉瀬の前方から歩いてきたのは見知った顔、奈々だったからだ。