俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
いろいろなことに驚きすぎて奈々は時が止まったかのように固まる。だが、メッセージが表示されている奈々のスマホをまじまじと見ている倉瀬に、ようやく我に返る。
「倉瀬さん何でここに……。ていうか、スマホ返してください」
「変な男にホイホイ連絡先教えてるんじゃねーよ」
「なっ、倉瀬さんには関係ないでしょ!」
奈々は思わずムキになって叫んだが、倉瀬はそれを無視し奈々のスマホを勝手に触り片手で器用に操作する。倉瀬の長い指がしなやかに動き、その大胆な行動に奈々は唖然として見ているしかなかった。
「ほらよ」
雑にスマホが返され、奈々は取り落としそうになりながら慌ててスマホを胸に抱く。
「何かあったら俺に連絡してこい」
言っている意味がわからず、奈々は小さく首を傾げた。
倉瀬は顎でくいっとスマホを指す。
「え?」
奈々は胸に抱えたスマホを確認する。
と、合コン男のメッセージも連絡先もすっぱり削除されており、それどころか代わりに倉瀬の連絡先が登録されているではないか。
信じがたい事実に、奈々はスマホと倉瀬を交互に見た。
「俺を頼れよ。奈々」
倉瀬の力強く真っ直ぐな瞳に、奈々は息を飲んだ。
月明かりの下、口元に笑みを称えながら奈々を見据える倉瀬は堂々としていて隙がない。
自分勝手で強引で、それなのにそれが嫌じゃないなんて思ってしまったことに奈々は認めたくない気持ちでいっぱいになった。“奈々”と名前を呼ばれたことにも動揺してしまう。自然と頬が熱くなるのを感じると共にドキドキと鼓動が早くなっていく。
奈々は自分の気持ちが倉瀬の方へ揺れ動いていることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
心臓が痛いほどに締めつけてくる。
(どうしよう、こんなにもドキドキするなんて。私、どうしちゃったの?)
奈々はあからさまに倉瀬から目を逸らし、動揺が悟られないようにじっとスマホの画面を見つめていた。あまりの心臓の高鳴りに、顔を上げることは到底できそうになかった。