俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇◇◇

二月の最大のイベントといえばバレンタインデーだ。
奈々のいる課では、女性陣でお金を出し合ってチョコを買い男性陣に渡すのが慣例になっている。もっとも、男女比率が違いすぎるためちょっといいチョコを大袋で買い一包ずつばらまくだけである。

それとは別に、今年の奈々はもうひとつチョコを準備していた。
小さいけれどしっかりとした箱に入って綺麗にラッピングされた、義理とは言い難いバレンタイン用のチョコレート。何を隠そう、倉瀬に渡すために買ったものだ。

奈々は父と弟以外の特定の誰かにバレンタインのチョコを久しく渡していなかった。そのため、まさか自分が倉瀬にチョコをあげたいだなんて思う日がくるとは夢にも思わなかった。

チョコ売場で時間をかけて散々悩み、高すぎず安すぎずそれでいて迷惑にならない程度の物を選んだのだが、こんなに悩んでドキドキしながら買ったチョコレートは本当にいつぶりだろうか。

チョコは、渡す機会を伺いながら鞄の奥底に待機している。

あくまでも義理チョコだ。
だから渡すのなんて簡単だろう。
いつもありがとうございます、と一言添えて渡すだけ。

それなのに、そんな簡単なことができないでいた。もういい大人なのに、いじいじしている自分に笑ってしまう。いや、大人だからこそ傷付くのを怖れて前に進めないのかもしれない。

(別に告白するわけじゃないんだから。日頃の感謝の気持ちを伝えるだけ……)

そう思っても勇気が出ず、あっという間にお昼の時間になってしまった。
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