俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
「彼女いたんだねー」
「てか、見かけによらず彼女想いなんだー」
「いや~、玉の輿逃したわー」
「え、朋ちゃん狙ってたの?」
「まさかー!」
それぞれが勝手なことを言いゲラゲラと笑う。いつもなら楽しいランチの時間は、苦痛で耐え難いものになってしまった。
それほどまでに倉瀬に対する自分の気持ちが大きくなっていることに、奈々はようやく気付いた。気付いたけれど、もう手の届かないところに倉瀬はいるんだと思うとハンマーで頭を殴られたかのような衝撃に襲われる。
(ほらやっぱり、あの時のあの人が倉瀬さんの彼女なんでしょう?)
何とか頑張って笑顔を作りいつもの自分を演じられたつもりだ。
この気持ちは、誰にも知られてはいけない。奈々はそっと心の奥に閉じ込めた。
「ごめん、私今日寝不足で。先に席に戻るね」
「うん、わかった~」
まだまだおしゃべりに花が咲いている朋子たちに断って、奈々は先に自席に戻る。フロアには人はまだまばらで、倉瀬の姿も見えなかった。奈々は急に悲しくなりデスクの上に突っ伏す。
どうしてチョコをあげようと考えてしまったんだろう。
どうして彼女がいないなんて思ってしまったんだろう。
優しくされたから?
キスされたから?
(誤解されたくないって言われたのを、私は自分の良いように解釈してしまったんだ)
考えれば考えるほど胸の苦しさは増すばかりだ。なぜ苦しくなるのか、奈々は考えを巡らす。そして一つの結論にいきついた。
(……私、倉瀬さんを好きになったんだ)
自分の気持ちがはっきりしたと同時に失恋なんて、奈々は可笑しくて悔しくて涙が止まらなかった。