俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

「もしも……」

「お前、今どこにいる?」

奈々の声に被さるように、倉瀬の声が耳を刺す。その声色はやはり怒りに満ちていて奈々はしどろもどろになりながら答えた。

「あの……どこ……ですかね?歩いてて……。えっと……何か仕事でミスをしてしまったんでしょうか?」

「どこですかね、じゃねーよ!」

怒り口調の倉瀬に、奈々はさらに身を小さくした。

やはり予想通り倉瀬は怒っている。仕事中ぼーっとしすぎて、きっと何かやらかしてしまったに違いない。寒さで頭は多少冷えてきたため、奈々の思考は少し復活していた。会社に戻るべきかもしれないと思って口を開く。

「あの、今から会社に戻ります」

「はあ?バカか。そこで待ってろ。俺が行く」

倉瀬はそう言うと、一方的に電話を切った。

「え、ちょっと」

奈々の声は虚しくも空回り、ツーツーと切れた音が耳に響くのみだ。
奈々はこの状況についていけず呆然と立ち尽くした。

(俺が行くって?まさか倉瀬さんが直々に私を叱りに来るとでもいうの?ど、どうしよう。に、逃げたい……!)

おろおろとするだけで、奈々の体はその場から動くことができずにいた。

地下鉄の一駅は近いということを改めて感じる。電話が切られてから十分も経たないうちに倉瀬が現れたからだ。
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