俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
倉瀬は乱暴に髪の毛をくしゃっと掻いて、心の中でくそっと悪態をつく。こんなにももどかしい思いをしたのは初めてだし、こんなにも手に入れたいと思ったことも初めてのことだ。
奈々には誠心誠意で気持ちを伝えなければ何も伝わらないのかもしれない。
奈々は純粋すぎるのだ。
倉瀬は自分の人生で、もしかしたら初めてかもしれない心からの言葉を奈々に向ける。
「俺は奈々が好きだ」
「っ!」
その言葉に奈々は目を見開き、そして刻が止まったかのように動がなくなった。
「奈々、好きだ」
もう一度言う倉瀬の声色は柔らかく、そして視線は甘い。
奈々は震える両手で口元を覆う。
「……嘘」
呟いた声は倉瀬に聞こえたかどうなのか。
そしてまた一筋涙がこぼれた。
嬉しいのか驚きなのかよくわからない感情が奈々を渦巻く。
それを理解するには少し時間が必要だった。
お互いの心臓はバクバクしている。
けれど、夜の帳だけは静かに二人を包んでいた。