俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
奈々は倉瀬の温かい胸に抱かれながら、頭の中では”好きだ”と言う倉瀬の声がリピートされていた。
まるで夢を見ているんじゃないかと、何度も倉瀬の温かさを確かめる。
欲しかった言葉が奈々を包んで、心ごと溶けてしまうのではないかと思った。
哀しみの涙はいつしか嬉し涙に変わり、やがて静かに落ち着きを取り戻していった。
そうだ。
今なら渡せるかもしれない。
今なら、気持ちを伝えられるかもしれない。
奈々は倉瀬の胸をぎゅっと押して、顔を上げた。泣き腫らした真っ赤な目元は、倉瀬がそっと拭ってくれる。
「あの……」
「なんだ?」
奈々はおもむろに鞄をごそごそとする。
もう渡すつもりもなく、むしろ捨ててしまおうと思っていたチョコは鞄の奥深くに入りすぎて取り出すのに苦労した。箱が潰れていなくてよかったと、ほっとする。
「これ。いつもありがとうございます」
「俺に?」
奈々がコクンと頷くと、倉瀬は躊躇いもなく箱を受け取る。
綺麗にラッピングされたその箱は、今日のイベントを彷彿とさせる。
「バレンタインのチョコってことだよな?」
倉瀬が一応確認すると、奈々は頬を真っ赤に染めてコクンと頷いた。
まさか奈々がバレンタインのチョコを用意していようとは夢にも思わず、倉瀬は嬉しさで思わず頬が緩んだ。
上目遣いの奈々が小さな声で呼ぶ。
「倉瀬さん」
「ん?」
「好きです」
不意打ちすぎて、倉瀬は思わずチョコを落としそうになった。
倉瀬がほしかった言葉が急に降ってきたかと思うと、当の本人は頬を更に真っ赤に染めながらもじっと倉瀬を見つめている。
もう、迷いのない綺麗な瞳だった。
「ああ、俺もだ」
そう言って倉瀬は愛しそうに奈々の頬を撫でた。
ニッコリと微笑んだ奈々に倉瀬は目を細めると、ゆっくりと顔を近付ける。
”あの時”とは違い、奈々はそっと目を閉じた。
長い長いキスはとろけてしまいそうになるほど甘くて優しくて、奈々はまた涙で溺れそうになった。
お互いの好きという気持ちが混じり合って、顔を見合わせて照れ笑いをする。
そんなことが嬉しくて幸せで、胸がいっぱいになった。
冬の空はいつの間にか粉雪が舞い、ふわりふわりと恋人達を祝福するかのように降り注いでいた。