俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
程なくカルビが運ばれてきて、奈々はさっそく網の上に乗せる。じゅっといい音がして、煙が上がった。トング等もないので割り箸を使う。この店の雰囲気がそうさせるのか、細かいことを気にする方が野暮のようだ。
「じゃあ、いただきまーす」
奈々は焼けたお肉を小皿に取り、ふーふーしながら頬張った。
「美味しい~」
左手を頬にあててニコニコ微笑む。
倉瀬と目が合うと、更にニコニコ顔になった。
「幸せそうだな」
「ふふ。美味しいもの食べると幸せです」
倉瀬も肉を摘まんで小皿に乗せる。ここの肉は初めからすべて味付けがされているので、あえて別皿でタレはつけない。焼けた肉をそのままパクリと口の中に入れると思った以上に柔らかく、何より味付けがすごく食欲を刺激する何とも美味しいものだった。
「美味いな」
倉瀬が言うと、奈々は満面の笑みになって答える。
「でしょ!」
「ビールより白飯だな」
「私もそう思う~」
奈々は追加でごはん(小)を頼んで、倉瀬にも強制的に手渡した。
「倉瀬さん焦げてますよ」
「え?ああ」
ぼんやりしていると奈々がささっと手際よく倉瀬の小皿に肉を取りわける。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる奈々が可愛らしく、倉瀬は見ているだけでさらに気分がよくなった。
「倉瀬さん、自分でやる気ないです?」
訝しげな視線を向けられて、倉瀬は苦笑いだ。奈々には倉瀬の魂胆などお見通しらしい。
「奈々に焼いてもらうと旨い」
「ええっ、なにそれ」
困惑しつつも奈々は焼けた肉を倉瀬の小皿にのせる。
「絶妙な焼き加減なんだよ。俺の好みをよく知ってる。さすがだな」
「もう、そんなこと言って。甘えん坊さんですか」
「考えたことなかったけど、実はそうなのかもしれないな」
「ふふっ。似合わないです」
あまりにも倉瀬が真面目な顔をして言うので、奈々はしばらくクスクスと笑い続けた。そんな奈々を見て倉瀬も笑う。この空気感がまらなく愛おしく感じられた。