俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

「奈々?」

「うん?」

「何で泣いてる?」

倉瀬の問いに、奈々は心臓がドキリと跳ねた。

泣いてなんかいない。
泣いてなんかいないのになぜ倉瀬はそんなことを言うのだろう。

「何でもない」

「嘘つけ!」

そこからまさかのお説教が始まり、倉瀬は奈々の隣にどっかりと腰を下ろすとじろりと睨む。何となく雰囲気で、奈々はベッドの上で正座になってしまった。

「お前、会社では俺にズケズケ意見してくるくせに、何でプライベートでは何も言わずに我慢するんだ」

「……我慢してません」

「言いたいことがあるなら言えよ」

「……別にないです」

頑なに心を閉ざす奈々に、倉瀬は溜め息をついた。

本当に頑固で困る。
どうしたら心を開いてくれるだろう。
どうしたら信用してくれるだろう。

考えても出ない答えに、倉瀬はモヤモヤとした気持ちになった。だからといって奈々を責め立てる気にもならず、倉瀬はふうと息を吐く。

「そんなに俺と寝るのが嫌だったか?悪かったな、強引なことして」

倉瀬は奈々の頭をぽんっと撫でてから立ち上がった。

「あ……」

(違うの。待って。行かないで)

そのまま部屋を出ていこうとする倉瀬に、奈々は慌てて手を伸ばす。どうにか届いた倉瀬の袖を思いきり引っ張った。

クンっという衝撃で振り向けば、奈々が上目遣いで見つめている。今にも泣き出しそうな顔をしたかと思うと、倉瀬にしがみついた。

「ごめんなさい。行かないで。側にいて」

絞り出した言葉は甘くて切なくて。

奈々の可愛らしい甘えに、倉瀬は気持ちが抑えられなくなりそうだった。しがみつかれている腕をほどき、逆に倉瀬から奈々を強く抱きしめ直す。と、奈々もそれに応えるようにぎゅっと力を入れた。
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