俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
朝起きて奈々がいて、コーヒーを淹れてくれトーストを出してくれる。たわいもない話をしながら笑い合って、ゆっくりと時間が流れる。
こんなに心穏やかに過ごしたことが、これまであっただろうか。
こんなに大切だと感じたことがあっただろうか。
こんなに幸せだと思えることがあっただろうか。
「なあ」
祐吾はカウンター越しに呼び掛ける。
「うん?」
作業しながら耳だけ傾ける奈々に、祐吾はさらっと言った。
「ここに住めよ」
はっと顔を上げた奈々は驚いた顔をして頬を染め、そして困った顔になった。
選ぶように、慎重に言葉が紡ぎ出される。
「とっても嬉しいんだけど……ごめんなさい。すぐに家を出る決心はつかないの」
「そうか」
断られたことは、別にショックではなかった。想定の範囲内だ。奈々が家族を大切にしているのは分かっていたことだ。
無理強いはしない。
また泊まらせればいい。
「あっ、でも。私のもの、置いていってもいいですか?歯ブラシとか、お箸とか」
「ああ。だったら後で食器も買いに行こう」
「出歩かないんじゃないの?」
「しゃべらなければいいだろう?」
そう言って、二人は笑い合った。
幸せな時間はゆっくりと二人を包んで、穏やかに時を刻む。
窓から差し込む光りがとても暖かかった。