俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

ようやくインターホンが鳴り、モニターに待ち人が映し出された。

奈々だ。

いつも通り返事をし鍵を開けてやると、もうすっかり慣れた足取りでエントランスへ消えていった。

待ちきれなくて玄関を開けて待っていると、祐吾に気付いた奈々が小走りでやってくる。

「遅かったじゃねーか」

そう言って、祐吾は奈々を家の中へ迎え入れた。扉が閉まるとそのまま奈々を抱きしめる。

「どうしたの？」

「どこへ行っていたんだ？」

奈々を抱きしめたまま問う。

「ちょっと用事」

「俺には言えないことか？」

少し怒り口調になってしまうのは、祐吾がイライラしていたからだ。

「そういう訳じゃないけど」

体を離すと奈々は困り顔で祐吾を見た。

奈々はいつも小さめのショルダーバッグで来るのに、今日は大きめのトートバッグを持っていた。そこから何枚か用紙を出して、祐吾に見せる。

「これは？」

「転職……考えてて……」

それはハローワークで貰える求人票の紙だった。仕事をしていると平日にハローワークへはなかなか行けない。わざわざ土曜日に開いているところを調べて通っているとのことだった。

「転職？何でまた？」

「いつまでも派遣社員じゃやっぱりよくないかなって」

奈々の言葉に祐吾はしばらく黙った後、

「ダメだ」

と短く言った。

「どうして？」

「お前何かやりたいことでもあるのか？」

祐吾の鋭く刺すような言葉に、今度は奈々が黙る。

言われて、奈々は考えてみる。これがやりたいという明確なものはなく、かといってキャリアアップしたい、というのも何となく違う。