俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇◇◇
祐吾は電車に揺られながら過ぎ去る景色をぼんやりと眺めていた。中心街から離れるにつれて、のどかな田園風景が広がってくる。
先日の奈々とのやりとりを思い出して、祐吾はふと笑みをこぼす。
「祐吾さん、結構大きいお祭りなので道路が渋滞するんです。だから車はダメですよ。電車で来て下さい。電車の乗り方わかりますか?」
事細かにいちいち指示を出す奈々。電車の乗り方わかりますか?とは、失礼にも程がある。
俺をバカにしてるのかと問えば、「だって祐吾さん、電車乗らなさそうだし」とか言い出す。本気で心配そうな顔をしたので、祐吾はそれ以上何も言い返せなかった。
祭りの影響か、電車も割りと混んでいた。
浴衣姿の女性もちらほら見受けられる。
奈々はいつもこの電車でこの風景を見ているのかと思うと感慨深くなった。
改札を抜けると、奈々が手を振って待っていた。そして開口一番、
「祐吾さん、ごめんなさい!」
と謝ってくる。
祐吾は何事かと身構えた。
「あの……。うちの父が、祐吾さんを連れて来いって……」
泣き出しそうな顔で見上げてくるので、とりあえず頭をくしゃくしゃっと撫でて落ち着かせる。
よくよく聞いてみれば、出かける直前に父親に「彼氏とお祭りに行く」と伝えたところ、その「彼氏」を家に呼べと言ってきたそうだ。そんな急な話は迷惑だと断ったが、父親は頑として譲らず、逃げるように家を飛び出してきたと言うことだった。
話を聞きながら、奈々の頑固さは父親譲りなんだな、と祐吾は妙に納得した。
「別に俺は構わない。この際だからきちんと挨拶すべきだな」
「……祐吾さん」
特段緊張することもない。いつかは挨拶をしなければいけないところ今日になっただけのことだ。ただし、スーツでもなければ手土産さえも持っていない。
奈々は、「そんなの全然いいです。ありがとう」と恐縮しながら少し涙目になって言った。祐吾はまた、奈々の頭をくしゃくしゃっと撫でた。