俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
「奈々、お茶でも出さないか」
「あ、はい」
ぼんやりしていた奈々だったが、父親の言葉で現実に引き戻される。
「それから祐吾くん、夕飯でも食べていきなさい」
「えっ……祐吾さん……大丈夫?」
突然の父親の提案に、奈々は心配そうに尋ねる。
「お言葉に甘えて、いただきます」
祐吾は奈々の父親にそう告げた後、奈々の方を見て小さく頷いた。それを見て、奈々はほっとしたような表情を見せ席を立った。
「私、夕飯の準備をしてきます。お父さん、祐吾さんに変なこと言わないでよ」
奈々は父親に念押ししてから応接間を出て行った。
奈々が遠ざかったのを確認してから、父親が口を開く。
「突然呼び出してすまなかったね」
「いえ、こちらこそ手土産も持たず申し訳ありません」
祐吾がもう一度頭を下げると、やめてくれと手で制す。奈々の父親はふうと大きく息を吐き出すと、先程とはうって変わって優しい眼差しで祐吾を見た。
「奈々の母親が亡くなっているのは聞いているのかな?」
「ええ、少しですが」
奈々の母親は奈々が大学三年生の時に突然入院して、闘病の甲斐むなしく一年程して亡くなった。奈々は就職活動もそっちのけで毎日病院に通っていた。
「お恥ずかしい話、妻が亡くなったとき私がショックで鬱になってしまってね。それからずっと奈々は家のことを優先してくれたんだ。もっとやりたいことや遊びたいこと等あっただろうにね。もう大丈夫だからと言っても聞きやしない」
ああ、奈々らしいなと祐吾は思った。だからこそ余計に早く働かなくてはと思ったのかもしれない。じっくり就職活動をするよりも、手っ取り早く派遣に登録して働き出したのだろう。
「それが最近は週末になるととても楽しそうに出掛けていくんだ。聞けば彼氏ができたと言うじゃないか。帰りも遅いしたまに泊まってもくる。あんなに幸せそうにはにかんで笑う奈々を見るのは初めてでね。ずっとお父さんの側にいると言っていた奈々の心を動かしたやつはどんなやつなんだと知りたくなった。奈々に言ってもちっとも紹介してくれないから、痺れを切らして呼んだというわけだ」
あはは、と奈々の父親は照れながら笑った。
笑った顔は奈々とよく似ていた。
マンションで祐吾が「ここに住めよ」と言ったとき、奈々は困った顔をしていた。何か理由があるのかなとぼんやりとは思ったが、特に追及はしなかった。だがその意味が、ようやくわかった気がした。
「祐吾くん、不躾なお願いで申し訳ないが、どうか奈々を幸せにしてやってくれないだろうか」
言われなくとも、祐吾の答えは決まっている。奈々を幸せにできるのは自分しかいない。それくらい、奈々のことを愛しているから。
祐吾はしっかりと、決意を込めた声で
「もちろんです」
と答えた。
奈々の父親はとたんに親の顔になり、ありがとうと笑った。