俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
パンの焼けるいい香りがして、祐吾は本を閉じた。この家にこんな香ばしい良い香りが漂う日がこようとは、誰が想像しただろうか。
「祐吾さん、焼けましたよ~」
奈々がニコニコしながら、焼きたてパンをダイニングテーブルに並べる。
「昼食用にウインナーロールで、おやつ用にクリームパンと思って焼いたんだけど、焼きたてのクリームパンが超絶美味しいこと忘れていました。今すぐクリームパンを食べてほしいです」
力説しながら祐吾にクリームパンを押し付ける。勢いに負けて受け取ると、まだほかほかでふわふわだ。
一口かじるとパン生地からは湯気が立ち上ぼり、中のカスタードクリームも温かくてとろとろだった。
「うん、美味いな」
「でしょ!」
満面の笑みを称えながら奈々もクリームパンを頬張る。幸せそうに食べる奈々を見て祐吾も思わず笑みがこぼれた。
「あのね祐吾さん、仕事のことなんだけど」
食後のコーヒーを入れながら奈々が言う。
そういえば、転職がどうのこうのといった話は中途半端に終わっていたなと思い出した。
「課長に相談してみたら、契約社員の試験を受けてみないかって言われたの」
「課長に相談?」
祐吾は以前自分もその課長の下についていたことを思い出す。自分よりも課長に相談するなんてとバカな嫉妬心が湧いたが、大人なのでぐっと堪えて我慢した。
「私、受けてみようかなって……思って」
祐吾があからさまに不機嫌な顔をしていたので、奈々は控え目に「ダメかな?」とお伺いを立てる。
祐吾は葛藤した。
大人げない自分にイライラする。
どれだけ独占欲が強いんだろう。
課長に相談したことで奈々が契約社員の試験を受けられることになった。だったら祐吾はそれを全力でサポートするしかないだろう。
「頑張れよ」
そう言って奈々の頭をくしゃくしゃっと撫でると、奈々は嬉しそうに「うん」と返事をして笑顔を見せた。