俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇
そんな折、祐吾に辞令が出た。
別室に呼ばれ上司から告げられた祐吾は柄にもなく戸惑った。ニューヨーク支店への長期海外出張だったからだ。出世していくためには海外出張は避けては通れない道であり、祐吾自身もいつかはあるのだろうと思ってはいた。だが、まさかこのタイミングで辞令が出るとは思っていなかったのだ。予定では八月から来年の三月までた。
「八ヶ月間か……」
祐吾はデスクで一人呟く。祐吾の懸念事項はただ一つ。奈々のことだ。
八ヶ月も離れるのは耐え難い苦痛であると共に、いつだって自分の側にいてほしいという独占欲が祐吾を支配する。連れて行きたい気持ちで山々だが、奈々は契約社員の試験を受けようと頑張っているところだ。もしも連れて行くのだとしたら奈々は仕事を辞めなければならない。それは奈々の気持ちを踏みにじることにもなりかねない。
例え仕事を辞めさせ一緒に連れて行ったとして、祐吾が仕事の間は奈々は一人で過ごすことになる。それでは本末転倒だ。異国の地での一人は不安が募るだろうし、何より祐吾が気が気でなくなる。
だったら日本に置いて行くべきだろうか。順調にいけば八ヶ月後には日本に戻る予定なのだから。
どうにも結論が出ず、祐吾は海外出張の話をなかなか奈々に言い出せずにいた。
奈々はいつも通り「祐吾さん」と可愛い声と無垢な笑顔を見せながら寄っていく。
愛しくてたまらない存在を手放したくない。
いつだって、手の届くところにいてほしい。
手を伸ばせば抱きしめられるこの距離にいてほしい。
祐吾が抱きしめれば、奈々は祐吾の背中に手を回して優しくぎゅっと抱きしめ返した。その絶妙な力加減が祐吾の心を優しく包み込む。
「奈々」
「なあに?」
呼び掛ければ無垢な笑顔を見せる。
大事な話が言い出せない代わりに、
「好きだ」
という言葉で誤魔化した。
奈々はとびきりの笑顔で、
「私もだよ」
と言った。
祐吾は得も言われぬ気持ちで胸がいっぱいになった。