俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇
奈々がいつも通り出勤すると、隣の席の朋子がこそこそっと聞いてくる。
「おはよう奈々。あのさ、倉瀬さんが海外に行くって本当?」
朋子は奈々にとって社内で一番仲のいい同僚だ。倉瀬と付き合っているという噂が流れたとき真っ先に確認してきたのも朋子で、隠し事が苦手な奈々は朋子にだけ正直に話してある。
「え?海外?」
奈々はきょとんとして聞き返す。
「長期海外出張って聞いたんだけど、奈々が知らないならデマかな?ごめんごめん」
「あ、うん……」
朋子は首を傾げながらもすぐに別の話題を話し始めた。奈々は相槌をうちながらも突然降って湧いた話に胸がざわついて仕方がなくなった。
(どういうことだろう。祐吾さんが長期海外出張?)
火のないところに煙はたたないとはよく言ったものだが、祐吾からは何も聞いてない。休日に会った際も一言もそんな話は出なかったしそんな素振りも感じられなかった。
ざわざわした胸騒ぎは一日中続き、奈々はその日仕事が手につかず何をやっても上の空状態だった。