俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇
「おーい、祐吾!」
祐吾がオフィスを出たところ、背後から名前を呼ばれて振り向くと久しぶりに見る顔がある。
「智也か。珍しいな、こんなところで」
智也は祐吾の隣に来ると、並んで一緒に歩き出した。
祐吾と智也は幼稚園から高校までの私立一貫校で共に学んだ仲だ。頻繁に連絡を取り合ったりすることはあまりないが、それでもずっと仲がいい。会えばこうしていつもの調子で話し始めるくらいにお互いを分かりあっている関係だ。
「今日は早く上がれたんだ。たまには飲みに行こうぜ」
「いいけど、お前、酒は飲めないんだろう?」
智也は総合病院に勤務する医師だ。いつ何時呼び出しの電話がかかってくるかわからないため常日頃飲酒は控えている。
気を遣った祐吾だったが、まあまあいいからと智也は強引に行きつけの居酒屋に祐吾を連れて行った。
ザワザワとした店内のカウンター席に座り、ウーロン茶で乾杯をする。と、智也がニヤニヤと切り出した。
「最近奈々ちゃんとどうよ?」
「はあ?気安く名前を呼ぶんじゃねーよ」
智也には一度奈々を紹介したことがあった。智也は二人の雰囲気から祐吾が奈々にベタぼれなのを見透かして、「あの祐吾がねぇ」と目を丸くして驚いたものだ。
「結婚しないのか?」
「お前、いつも直球だな」
ズケズケとものを言う智也に、祐吾はふんと悪態をついた。ウーロン茶を一口飲んでから、聞こえるか聞こえないかくらいの声でぼそりと言う。
「俺、長期海外出張の辞令が出た」
「マジかよ」
智也は大げさに驚き、ウーロン茶を噴きそうになる。
「奈々にはまだ言ってない」
ぶほっ、と今度こそ智也はウーロン茶を噴き出した。
「お前っ、きったねぇな」
「ゲホッ……祐吾が……ゲホッ……らしくないこと……ゲホッ……言うから」
完全に気管支に入ったのか、智也は赤い顔をしてゲホゲホとむせる。祐吾は大きくため息をつきながら智也におしぼりを手渡し、ふんとそっぽを向いた。