俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
「本当は連れて行きたいんだが……。あいつもうすぐ契約社員の試験を受けるんだ。今猛勉強中でさ、わからないとか言いながら頑張ってる。諦めさせて連れて行ったところで、昼間は一人ぼっちだろう。それを思うと気が引ける。だから迷ってる」
神妙な顔つきで何かを考えながら言う祐吾に、智也は「へぇ」と目を細めた。
「祐吾、お前変わったな」
「何がだ?」
「俺様じゃなくなった。いい意味で丸くなった」
「はあ?」
「ちゃんと他人に気を遣えるようになったし」
「何が言いたいんだよ」
「奈々ちゃんパワーすごいな」
「……ふん」
しきりに感心する智也に祐吾はむず痒さを覚え小さく舌打ちし、そしてまたそっぽを向いた。
祐吾は自分でもわかっていた。仕事のことは別として、プライベートの祐吾は相手に自分本意な考えを押しつけて無理矢理にでも従わせたはずだ。人の気持ちを考える、人の意見を尊重するなんてもっての他だった。
それが今はどうだろうか。奈々の気持ちを考え、先のことを考え、祐吾は迷っている。ずいぶんと骨抜きにされたのに、祐吾はそんな風に変われた自分も悪くないと思った。そして改めて、それほどまでに奈々を愛していることに気付かされる。
まんざらでもない顔をする祐吾に、智也は察してニヤニヤと目を細める。
「あー、羨ましい。乾杯~!」
智也はウーロン茶をイッキ飲みすると祐吾の肩をバンバンと叩いた。
「ウーロン茶で酔うなよ」
「うるさい。ウーロン茶でも飲まなきゃやってられねーよ。奈々ちゃんにベタ惚れどころか俺にまで気を遣えるようになった祐吾を見てたら感動して涙が出るね」
「うるせぇ……」
祐吾はまた、ふんとそっぽを向く。何となく照れくさい気持ちになった祐吾は人知れず嬉しそうに微笑み、その顔は幸せで満ちていた。