俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇
週末、奈々は祐吾のマンションへ来るなり開口一番聞く。
「祐吾さん、長期海外出張って本当?」
祐吾はぐっと息が詰まる。よもや自分が告げる前に奈々の耳に入っていようとは思いもしなかったので、ドキリと心臓が大きく鳴った。大きく綺麗な瞳の奈々はじっと祐吾を見つめる。その真剣さに嘘はつけないことを悟った祐吾は小さく頷いた。
「ああ、本当だ」
「……何で教えてくれなかったの?」
淡々と返事をする祐吾に、奈々は泣きそうな顔で尋ねた。やはり朋子が言っていたことは本当だったのだ。秘密にされていたのかと思うと奈々は胸が詰まる。
「お前の試験の邪魔をしたくなかった」
「でもっ。大事なことなのに……。ちゃんと言ってほしい」
「言ったところで何も変わらない」
「でもっ……」
冷たくあしらわれ、奈々は唇を噛んだ。そんな奈々に追い打ちをかけるように祐吾は言い放つ。
「奈々、ついてくる気なんてないだろう?」
そう言われて奈々は押し黙るしかなかった。胸のモヤモヤはどんどんと膨れ上がり苦しいくらいに奈々を締めつける。
ついてこいって言ってほしかった。
俺の側にいろって言ってほしかった。
あなたが望むなら、私は従うのに。
それは言葉にならず、代わりに涙が滲んだ。悔しくてたまらない。大事なことを伝えてもらえなかったことや奈々の気持ちをないがしろにしていること。そのどれもが憎くてたまらない。奈々は唇を噛みしめながら潤んだ目で祐吾を睨む。祐吾も不機嫌そうにソファに座るが、やがて奈々から目を逸らした。
気まずい空気が流れる。
聞こえるのは、時計の針の音だけだ。
普段は気にならない控えめな音のハズなのに、今日はやけに大きく耳に響いた。
いたたまれなくなって奈々は祐吾に背を向けた。滲んでしまった涙をそっと拭うとキッチンに立つ。ここで怒って帰ってしまったら負ける気がした。というより、祐吾と仲直りができない気がした。別に喧嘩をしたいわけじゃないのだ。