俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
奈々は小さく息を吐き出す。
無性に腹が立つそんな時は、無心に料理をするに限る。すっかり使い慣れたキッチンは食材も調味料も大方揃っていた。どうせお互いすぐには機嫌が直らないのだから、時間のかかる煮込み料理にしようと奈々はエプロンをかけた。
冷凍庫から豚バラのブロック肉を取り出し、解凍してからたっぷりのお湯で煮る。一度洗ってもう一度お水を入れて、今度は玉ねぎと砂糖でコトコト煮込んだ。一時間程煮込んだら、醤油と味醂で味を整えてもう少し煮る。
そんな作業を黙々とこなしていると、だんだんと気持ちも落ち着いてくる。思わずカッとなってしまったが、頭が冷えて来れば先ほどのやり取りを冷静に思い出せるほどに奈々の気持ちは穏やかになっていた。
(さっき祐吾さんは何て言ったっけ?確か……)
──お前の試験の邪魔をしたくなかった
それは祐吾なりの気遣いなのではなかろうか。ふとそんな風に思って奈々はハッとなった。不器用にも奈々のことを気遣う祐吾の気持ちに気づいて、とたんに奈々は胸が熱くなるようにぎゅっとなった。
奈々はお皿に出来立ての角煮を盛り付ける。箸で切れてしまうほどトロトロになった角煮の出来に大満足し、奈々はにこやかに祐吾に話しかけた。
「祐吾さん、ご飯を食べて仲直りしましょう」
「……別にケンカなんてしてないだろ」
ぶっきらぼうに言いながら祐吾はダイニングへのそのそと歩いてくる。
「お箸で切れる自慢の角煮です!」
じゃじゃーんと効果音を付けて祐吾に紹介すると、祐吾は疑いの眼差しを見せる。
試しに箸を刺せば、本当にするりと切れてしまうので祐吾は奈々をチラリと見る。奈々は得意げに「食べてください」と笑顔を見せた。
祐吾はプルプルの角煮を口へ放り込む。一口頬張れば柔らかくて優しい味がした。
──美味しいものを食べると幸せ
いつかそう言って笑った奈々を思い出し、祐吾はふっと笑う。まさかそれを今実感するとは思わなかった。