俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
祐吾は箸を置いて奈々を見つめる。その視線は先ほどまでとは打って変わって柔らかだ。視線に気づいた奈々も箸を置いて小さく首を傾げた。
「奈々、海外出張一緒に行くか?」
奈々は驚いて息を飲む。行く行かないにしろ、祐吾からそうやって言ってもらえることのありがたさを感じて胸がいっぱいになった。
奈々は一呼吸ほどおいて、ふるふると首を横に振る。
「ううん。私、待ってます。私は私のことを頑張ります。だから、祐吾さんも頑張ってきて」
「そうか」
ニッコリ笑う奈々に、祐吾もまた優しく笑った。
祐吾が旅立つ日まで約一ヶ月。毎週末は祐吾のマンションへ泊まることに決めた奈々は、一緒に荷造りを手伝いながら足りないものを買いに祐吾と一緒に買い物に出かけた。何気ないその時間がとても愛しいものに思える。
「奈々、これ」
「なあに?」
ふいに祐吾から渡されたもの、それはマンションの鍵だった。
驚いて祐吾を見やる。
「合鍵だ。勝手に使ってくれていい。使い方はわかるだろ?」
「受け取れないよ。それに、祐吾さんがいないのにここに来ないし……」
言いながら寂しくなってしまう。今からこんなことで大丈夫かと、奈々は不安になった。
「前々から渡そうと思ってたんだ。だから、使う使わないは別にして、持ってろ。」
「……うん」
奈々は鍵をぎゅっと握る。その手に祐吾の大きくてあたたかい手が重ねられた。奈々は嬉しさと同時に寂しさがこみ上げてきて視線を俯かせた。祐吾のいない八ヶ月間を憂いて鼻の奥がツンとしてくる。ふと視線を上げれば優しい眼差しで見つめてくれる、この幸せが遠くに行ってしまうのだ。
「なんて顔してんだ」
祐吾が困ったように言う。
だって……と言おうとして、奈々はふわりと包まれ抱きしめられた。祐吾の胸の中にすっぽりと納まった奈々はそのまま身を預ける。二人はしばし、お互いの温もりを確かめ合うように抱きしめあっていた。