俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
◇
今年の冬はいつになく寒く、何度も雪が降る。そのせいで交通網は乱れ、奈々は年始から大変な思いをしながら出勤していた。
つい電話越しに祐吾に愚痴ったら、「冬の風物詩だ仕方ない、頑張れ」とさらりとかわされる。
「それより、お前鼻声か?」
「うん、お正月明けから風邪を引いたみたいで、なかなか治らないの」
電話越しでも祐吾には何でもわかってしまうようだ。だが、ほんの些細な違いさえ気付いてくれたこともまた嬉しく感じた。
「あったかくして寝ろよ」
そう労いの言葉と共に、電話は切れた。
体調が悪いわけではない。ただ少し熱っぽくて、鼻がぐずぐずしている。風邪は引き始めが肝心だという。奈々は酷くならないようにと風邪薬を飲んでから寝た。
週が明けても症状は変わらなかった。病院に行くほどではないけど、とカレンダーを見つめながらふと生理がきていないことに気付く。
もしかして。
いや、まさか。
風邪を引いたことで遅れてるだけでしょ?
そう思いながらも、仕事帰りに薬局で妊娠検査薬を探した。始めて手にするそれをレジに持っていく手が震えそうになる。ドキドキと緊張が店員にも伝わってしまうのではないかというほど奈々の顔は強張っていた。
自宅で開封して使い方をしっかりと読む。そしてこっそりトイレへ駆け込んだ。
検査薬の判定時間は約一分だ。判定窓を凝視すると、一分を待たずしてすぐにくっきり赤いラインが現れた。
陽性反応だった。
「……嘘」
奈々は早くなる鼓動を抑えられないでいた。
妊娠検査薬を持つ手が震える。
自室に駆け込むと、その場にへたれこんだ。
赤ちゃんができた。
私のお腹に?
本当に?
どうしよう。
そんなつもりではなかった。
だけど出来てしまった。
どうしたらいいの?
どうしたら……。
焦りの中にも嬉しい気持ちもある。
祐吾さんの子供を授かった。
大好きな人の子供。
それは何よりも尊い。
けれど奈々はすぐに祐吾に言い出せなかった。まだ検査薬で確認しただけだ。ちゃんと病院で診てもらってからにしよう。
奈々はそっとお腹を触りながら自分を落ち着かせるため、大きく息をした。見た目何も変わらないいつも通りの自分の体なのに、ここに赤ちゃんがいるなんて不思議な気持ちだった。