俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
「倉瀬さん、書類は出来上がりましたか?」
先日倉瀬に突き返した書類の進捗を確認しようと声をかけたのだが、前回怒り口調でやり取りをしてしまったせいか少しぎこちない。なんとか口調は普通にできたが、変に緊張して笑顔にはなれなかった。
あくまでも事務的だ。
また何か言われるのではないかと思わず構えてしまう。
先程の男性とのやり取りの一部始終を見ていた倉瀬は、対応の差に違いがあることに内心ムッとした。奈々の声のかけ方が年配の男性と自分とでは明らかに違ったからだ。
(なぜ俺にはケンカ腰なんだ、この女は)
イライラが募った倉瀬は何も答えず、ただムスッと書類を差し出す。
むかついてはいたが、最低限のやるべきことはきちんとこなしている。嫌味ったらしく「そっちでやっといてくれ」とは言ったが、仕事は疎かにしないというのが倉瀬のモットーだ。
無言で書類を差し出す倉瀬に奈々は疑い深く受け取ると、記入された項目を素早く目で追いながらチェックする。思ったよりも綺麗な字できちんと書かれた書類は、不備などひとつもなく完璧だった。
相変わらずの態度だが、文句を言いつつもやるべきことはやる倉瀬。そんな不器用なやり方に奈々は少しだけ呆れながらもほっとする。
「ちゃんとやってくれたんですね。ありがとうございます」
奈々は丁寧にお礼を言って、ようやく倉瀬にも笑顔を見せた。
「……当たり前だ」
倉瀬はちらりと奈々を見ると、やはりぶっきらぼうに答えた。