俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
奈々はもう限界だった。
言うべきか、言わぬべきか。
言わないでおこうと思ったのに、結局こんなに心配をかけてしまっている。
祐吾を困らせてしまっている。
何より、もう自分が平静を装えないでいた。
「わたし……」
少し顔を上げて声を出すが、震えてしまう。
口を開いた奈々を祐吾は手を握ったままじっと見守った。そしてこの先の言葉を祐吾も覚悟して聞く。
「赤ちゃん……できて……でも……り、流産しちゃって……」
つらくて悲しい想いが奈々の体中を支配し、もうそれ以上言葉が出てこなかった。しゃべろうとすると声にならず、代わりにどんどん涙が頬を濡らしていく。祐吾を見ることすらままならず、奈々は再び俯いた。
(赤ちゃん?流産?)
祐吾の頭にいくつもの疑問符がわき上がり思わず強い口調で叫んだ。
「なぜすぐに俺に言わないんだ」
「……ごめん……なさい」
奈々は震えながらひたすら「ごめんなさい」を繰り返えす。
黙っていたことにごめんなさい。
流れてしまった赤ちゃんにごめんなさい。
不甲斐ない自分にごめんなさい。
とめどなく溢れる涙を止めるすべは見つからなかった。
祐吾は叫んでしまったことを戒めながら、頭をフル回転させて直近の出来事を思い出す。
(海外出張の間に浮気だなんて、奈々に限ってそんなことはありえない)
奈々を信用しきっているためその予想は瞬殺された。
(だとすると、いつだ?一時帰国の時か?)
あの時、奈々はいつも通りだった。
久しぶりに会えた喜びで奈々を抱きつくした。
年明け、風邪がなかなか治らないと言っていた。
二月に智也が総合病院で奈々を見かけたと言った。
(まさかその時一人で産婦人科へ行ったということか?)
普通の内科と違って産婦人科は少ない。それなら電車を使ってわざわざ総合病院へ行ったことも納得できる気がした。