妊娠前提マリアージュ~強面の海運王の身ごもり妻、赤ちゃんの誕生日が二人の離婚予定日~
港街・横浜。
昨晩から本土を覆い尽くした強い寒波が宵闇の空から真っ白な粉雪を降らせた。
朝になり、ようやく雪もやんで、どんよりした雲の隙間から陽が射し込み始める。

庭の木々には僅かばかりではあるけど、薄っすらと雪が積もっていた。

吐く息が白く濁る。
私はいつものように作業場へと向かう。

父は創業して百二十年の老舗和菓子店『文栄堂』の和菓子職人。
和菓子職人の朝は早い。

作業場にはじっくりと炊き上げられた国産の小豆としっかりと蒸されたもち米の香りが立ち込めていた。

私は義理の兄・正史(マサフミ)さんの隣で妊娠した姉の代わりに作業場に立つ。
長身で清潔な短髪ヘアに端整な顔。
作業場は外とは違い、温かく汗が滲む。
白井美晴(シライミハル)二十一歳。
正史さんは私の初恋相手。

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