そういう目で見ています
「失礼しますー。じゃあね、月蔵さん」
「はい、お疲れ様です」

理想のスーツに思いを馳せていた私は、ハッと現実に引き戻された。

契約の継続が成立して、ほくほくで帰っていく上司を見送って、業務の続きに取り掛かる。

頼まれていた資料はできれば、今日中に仕上げてしまいたい。

「月蔵さん」
「……っはい!」

「それ、今日中じゃなくても今週中で構わないよ?」
「でも今日終われば、また明日から別のお手伝いができますから」

彼は、ふ……と笑った。
笑顔が素敵だ。

「ありがとう。でも、残業はダメ」
そう言われて、私は時計を見る。
気づくと残業の時間になっていた。

「……ですね。えっと、多分明日の午前中には終わりますから、何かあれば言ってくださいね」

「では……」

隣の席に座っていた社長がこちらに向き直ったのだ。

そうして隣なのになぜか席を立って、私の後ろに来て、背後からマウスを握っていた私の手にその手を添える。
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